ハゲ親父のささやき

「親父は何でも知ってはいない」親父がよりよく生きていくためのブログ

予想をはるかに超えた恐るべき続編…「ドクター・スリープ」

f:id:kazunokotan:20191215213607j:plain

こんにちは、カズノコです!

 

 スティーブン・キング原作、スタンリー・キューブリック監督のホラー映画の名作「シャイニング」(1980)の40年越しの続編「ドクター・スリープ」(2019)を観に行きました!

 

前作となる映画「シャイニング」で一番有名なエピソードは、原作者のキングがキューブリックの手で映画化されたこの作品を毛嫌いしており、事あるごとに非難を繰り返していることですよね…。その後、映画「シャイニング」の批判をしないことを条件にキューブリックから映像権の許諾を得て、キング自身が脚本を手がけたテレビシリーズまで作ったほどでした。でも、キューブリックが亡くなっても、キングは映画「シャイニング」への批判をやめていません…。

 

 

キングが小説「シャイニング」の続編となる小説「ドクター・スリープ」を発表したのが2013年ですが、キングは自作の続編は書かない作家なんですね。それだけに「シャイニング」に対し愛着があると思うのですが、小説「ドクター・スリープ」は当然のことながら、映画「シャイニング」で変更された設定は全く無視され、映画はなかったものとして小説「シャイニング」の後日談として話が進められています。原作者による「あとがき」でも、まだ映画「シャイニング」に対する恨み節を炸裂させているのが恐ろしいです…。

 

 

 その「ドクター・スリープ」の映画化のニュースを聞いた時には、単にキングの小説「ドクター・スリープ」を映画化するのかと思っていましたが、ポスターや予告編を見ると明らかにキューブリックの映画「シャイニング」を下敷きにしています!「これは面白いことになりそうだ…!」と俄然、この映画に対して期待が持てましたよね!

 

 

どんなに原作者のキングが映画「シャイニング」を嫌おうとも、完全に無視するわけにはいかないでしょう。それだけ映画「シャイニング」はホラー映画史上に燦然と輝くマスターピースとして名を残しています。映画「ドクター・スリープ」の映画化を任されたマイク・フラナガン監督は、小説「シャイニング」と映画「シャイニング」の橋渡しをしようとアクロバティックとも無謀とも思えるチャレンジに挑んだとも思えます。

 

 

【注意!このあと「ドクター・スリープ」に関する重大なネタバレがあります!】

 

 

「シャイニング」の小説と映画の違いのひとつに、舞台となったオーバールック・ホテルのその後があります。ちなみに小説「シャイニング」では、ホテルは最後にボイラーの爆発により焼失しています。ところが、映画「ドクター・スリープ」では主人公たちのクライマックスの舞台としてオーバールック・ホテルで死闘を繰り広げます。これ以上最高な舞台があるでしょうか⁈

 

 

映画「ドクター・スリープ」は、映画「シャイニング」の続編として存分に楽しめる作品でありながら、小説「ドクター・スリープ」の映画化としてもパーフェクトと言っていい仕上がりとなっています。ちなみに、キングはフラナガン監督により映画化された「ドクター・スリープ」を自分の小説とは大きく異なる展開にもかかわらず、絶賛しています。

 

 

まず、「ドクター・スリープ」の物語そのものがホラーとはもう言えません。強いて言えば、「シャイニング」という特殊能力をもった者同士のサイキック・バトルを描いたダーク・ファンタジーで、前作「シャイニング」のホテルを舞台にした閉鎖的空間から、大きく解放された空間を文字通り縦横無尽に飛び回って戦いを繰り広げます。もはや「X-メン」の世界に近いものがありますね…。

 

 

主人公であるダニー・トランスは、40年前に起きたホテルでの忌まわしい出来事で心に深い傷を負い、過去からの亡霊から逃れるためにアルコール依存症となり、自暴自棄な生活を送っています。この中年になったダニーを演じるのがユアン・マクレガーで、父のジャック・トランスと同じようにアルコールの誘惑から逃れるために自分と戦う姿は哀愁さえ感じます。ユアン・マクレガーもいい年の中年おじさんを演じられるようになったということでしょうか…。

 

 

また、ダニー以上の強力な「シャイニング」を持ち、「トゥルー・ノット」と呼ばれる悪の集団と戦うことになる少女アブラを演じたカイリー・カランもよかったですね。

 

 

その悪の集団「トゥルー・ノット」を率いるローズ・ザ・ハット(変な名前…)を演じたレベッカ・ファーガソンもいいですよ!と言いたいのですが、敵役としてはあまり強くないんですよね…。アブラがめちゃくちゃ強いうえにダニーが加わるのだから、ローズには最初から勝ち目なんてない。オーバールック・ホテルの手を借りるまでもなかったですよね…。

 

 

2時間半の比較的長い映画ですが、テレビシリーズにしてもよかったほど細かいエピソードやスティーブン・キングのファンが喜びそうなトリビアはてんこ盛りですし、途中でダレることもなく最後まで観客を引っ張っていくフラナガン監督の手腕は大したものです。

 

 

でもですよ…。映画を観ている間、ちょっとした違和感を感じていたんですよね…。

 

 

「シャイニング」のその後を描いた「ドクター・スリープ」ですが、前作の登場人物も続々と登場します。

 

 

「シャイニング」でスキャットマン・クローザースが演じていたディック・ハロランは、「ドクター・スリープ」でもカギとなる大変重要な人物ですが、ハロラン役を演じたカール・ランブリーは、前作では大した活躍もできず、即退場となってしまったクローザースに匹敵する好演のおかげで、ついほろっとしてしまうほどでした…。

 

 

ただ、ハロランからダニーに渡した小箱が、ずらっと雪のホテルの迷路庭園に並んでいるシーンを観た時に、オチがわかってしまいました…。ネタ的には、スティーブン・スピルバーグ監督の「レディプレイヤー1」(2018)とかぶってしまっていますね…。自分的には封印していたホテルの亡霊が「トゥルー・ノット」の面々を一人一人「必殺シリーズ」のように趣向を凝らしながら倒していく展開を予想してましたが…。

 

 

違和感と言うのは、キューブリック監督の「シャイニング」の印象的なシーンをうまく再現しているにもかかわらず、そこで演じているダニー・トランス(似てない!)ウェンディ・トランス(似てない!)そしてジャック・トランス(なんと、あの「E.T.」のヘンリー・トーマスが演じている!…似てない!

…演じている俳優の皆さんには大変申し訳ありませんが、よくあるテレビのバラエティー番組の再現フィルムを観ているような変な気持ちになってくるんですよね…。いかにジャック・ニコルソンシェリー・デュヴァル の顔と演技に破壊力があったか、思い知らされました…。

 

 

クライマックスのオーバールック・ホテルでの戦いで「237号室の浴槽の女」「双子の女の子」「双子の父親であるデルバート・グレイディ」も登場しますが、みな一様に劣化しています…。

 

 

ホテルに乗り込んできたローズが、映画「シャイニング」で象徴的に描かれていた、血の海となるエレベーターホールの光景を見て鼻で笑うシーンを見て確信に変わりました…。この映画の脚本も担当したマイク・フラナガン監督が、映画「ドクター・スリープ」で本当にやろうとしていたことが…。

 

 

オーバールック・ホテルでの惨劇を細部まで入念に再現し、音楽やカメラワークまで似せてキューブリック監督の「シャイニング」への熱烈な賛辞としたフラナガン監督の意図はわかります。しかし、わざわざこの「ドクタースリープ」の登場人物に前作の怪異現象を目撃させる必要は何もないし、そっくりさんもどきに再現フィルムを演じさせる必要もないんです。カメラのアングルを変えて顔は映さないとか、必要あればCGで精巧に再現することも可能であるにもかかわらずです…。

 

 

この落差って何でしょう…。映画「シャイニング」のあちこちに散りばめられた数々のモチーフの得体のしれない不気味さは消え、オーバールック・ホテルの亡霊たちは残念なことにただの化け屋敷の仕掛けに成り下がってしまっていました…。

 

 

しかも、敵の首領のローズを倒してからの映画の展開は、まるで小説「シャイニング」の展開をなぞっています。小説「シャイニング」でのジャック・トランスとその息子ダニー・トランスを、この映画ではダニーとアブラに置き換えて再現を試みています。小説では正気に戻ったジャックの手でボイラーを爆発させ、炎上したホテルからダニーを逃がすのですが、映画ではダニーの手でボイラーを爆発させ、炎上したホテルからアブラを逃がします。何だかなぁ…、ここまでやらんでも。

 

 

筋金入りのキングの信奉者であるマイク・フラナガン監督は、一度はキューブリックの手に渡った「シャイニング」を、40年の時を経て原作者のキングの手に戻したんですね…。キングの小説とキューブリックの映画を一つの物語にまとめあげた手腕はすごいと思いますが、正直なところ、明らかにキング寄りでしょう…。キングがこの映画化された「ドクター・スリープ」を絶賛したのにも納得がいきます。この「シャイニング」を巡るどろどろとした作者の怨念の恐ろしさはキングの恐怖小説以上でしょうね…。

 

 

この映画「ドクター・スリープ」観た人で、キューブリックの「シャイニング」が嫌いな人は、原作者のキングと同じように胸がスッとしたことでしょう。逆に、キューブリックの「シャイニング」が好きな人は、もっと映画「シャイニング」のことが好きになったのではないでしょうか?少なくとも私はそうです。

 

 

「両雄並び立たず」とはよく言ったものですね…。

 

 

 

 

 

キングの作品の中でも一番脂ののっていたころの作品だと思います。最近のキングの作品に物足りなさを感じている方は、この機会に読み直してはいかがでしょうか?

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

新装版 シャイニング (上) (文春文庫)

 
新装版 シャイニング (下) (文春文庫)

新装版 シャイニング (下) (文春文庫)

 

 

 

 原作の小説「シャイニング」を読むときには、この映画のことはいったん忘れてしまうのがいいでしょう…とはいっても、この顔を忘れるのは正直ムリでしょうね…。

シャイニング [Blu-ray]

シャイニング [Blu-ray]

  • 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: Blu-ray
 

 

 

 ここまで来たら、やはり原作の小説「ドクター・スリープ」も読んでおくべきでしょうね。小説「シャイニング」からストレートにつながる続編です!

ドクター・スリープ 上 (文春文庫)

ドクター・スリープ 上 (文春文庫)

 
ドクター・スリープ 下 (文春文庫)

ドクター・スリープ 下 (文春文庫)