どちらが好み?キングとキューブリックの二つの「シャイニング」
こんにちは、カズノコです。
アメリカのホラー作家、スティーブン・キング原作の映画「IT/イット THE END “それ”が見えたら、終わり。」が11月に公開されたのに続き、「シャイニング」の続編「ドクター・スリープ」も公開されました。2020年1月には再映画化された「ペット・セメタリー」の公開が予定されており、ちょっとしたキング・ブームになっていますね。
日本でスティーブン・キングの名前が一般にも知られようになったのは、スタンリー・キューブリック監督の「シャイニング」が1980年に公開されてからだと思うのですが、私も映画「シャイニング」を観てキングの名前を知った一人でした。
ところで、私が一番最初に読んだキングの作品は「呪われた町」(集英社文庫)でした。「呪われた町」も新装版では藤田新策画伯の表紙画に変わっていますが、私が読んだのは、ちょっと、と言うよりもかなり陳腐な感じの上巻は目、下巻は唇のイラストの表紙で、読むまで若干の不安がありましたが…一読して、ぶっ飛びました!
吸血鬼が現代のアメリカの田舎町に現れるという話は、吸血鬼といえばコウモリの舞う古城に佇む「ドラキュラ伯爵」のイメージでしかなかった当時の私にとってはかなり新鮮な着眼点でした。
あと、読み終わった後の「崩壊感」とでも言うのでしょうか…「町が死んでいく」という感覚はこういうことなのかと、キングの筆力にただただ圧倒されてしまいました。
その次に読んだのが「ファイアスターター」(新潮文庫)でしたが、もう一挙にハマりましたね!超能力者である親子の逃避行をスピード感のある筆致で、ぐいぐい読者を引き込んでいくストーリーテリングにノックアウトされました…。しかも、泣ける…。
肝心の「シャイニング」なんですが…何せ原作者のキングが映画の「シャイニング」をめちゃくちゃこきおろしていたので、いったいどんな小説なんだろうと、想像ばかりたくましくしていましたが、版元が倒産して長い間読みたくても読むことができなかったのでずいぶんモヤモヤしてましたね…。映画の公開から6年も経って、やっと文春文庫で読むことができました!
で、読み終えての感想は、期待していた割には「こんなものか…」という軽い失望感と「原作者としては、あの映画化は怒るやろな…」という納得感でした。
それほど小説と映画のキャラクター設定からストーリーまで大きく異なっており、映画は小説の登場人物の名前と基本設定しか借りていない全くの別物と言ってもいいほど、キューブリックの映画になっています。
キングの長編ホラー小説の特徴として、日常描写の徹底的な書き込みがあります。序盤から中盤にかけてじわじわと怖さを盛り上げていって、ラストにかけてジェットコースターのような怒涛の盛り上がりを見せる展開も多くみられます。
ですので、映画の「シャイニング」、しかも上映時間119分の「コンチネンタル版」と呼ばれるバージョンを先に見た私にとっては、主演のジャック・ニコルソンの狂気に満ちた怪演と暴力的な描写のインパクトが強烈過ぎました…。
しかも、小説の「シャイニング」ではジャックは誰も殺しませんし、実にハートウォーミングなラストを迎えることになります。これにも驚きました…。
これはもうどちらの方がよいとか、優れているとかいう次元ではなく、小説も映画も別個の作品として「傑作」となってしまったんですね…。
原作者であるキングも、自分の意図したところとあまりにもかけ離れて作られてしまった映画が「駄作」であったら、ここまで非難を繰り返すことはなかったと思います。(実のところ、そのようなキング原作の映画はたくさんあります…。)
映画「シャイニング」が「傑作」であったゆえに、原作者としてのプライドもあり、素直に認めたくはなかったのではないでしょうか?(あくまで私見です…)
ところで、キング自らが脚本と製作総指揮を務めたTVドラマのミニシリーズとして、「シャイニング」は1997年に再映像化されています。
一説には、「シャイニング」のドラマ化の権利を持っていたキューブリックが、キングが映画に対する非難を止めるのを条件にドラマ化を許諾したと言われています。
キングほど映画が好きな作家はいないでしょうね。映像化された作品は70を超えるそうですが、「シャイニング」だけはどうしても自分の好きなように作り直したかったんだと思います。
私もこのドラマを観ましたが、結論から言えば、出来はとてもよかったと思います。当たり前と言えば当たり前ですが、キャラクターやストーリーは原作の小説に極めて忠実です。きちんと動物のかたちに刈り込まれた植木も出てきますよ…。
主人公であるジャックはアルコール依存症に悩んでいたり、家庭内暴力をふるった過去はありますが、ごくごく普通の人で、悪いのは邪悪な意思を持った存在であるホテルとそこに巣くっていた悪霊なんですね…。
映画でジャックを演じたジャック・ニコルソンはある意味ミスキャストですね…。顔つきからして、最初から狂っているとしか思えない…。
妻のウェンディも、もっと気丈でしっかりとした女性として描かれており、レベッカ・デモーネイが演じています。映画のシェリー・デュヴァルのヒステリックな演技も怖さを増すという意味では捨てがたいものがありますが…。
ただ、主人公の息子のダニーだけは、映画の方がいいですね。5,000人の候補者の中から選ばれた当時6歳のダニー・ロイド少年は、文字通り映画の中で「輝いていた」と思います。
ドラマでダニーを演じた少年も上手いんでしょうが、いつも半開きの口がだらしなくて、このドラマの唯一気になってしょうがないところなんです…。
このドラマはその年のエミー賞の作品賞にもノミネートされましたが、いかんせん監督したミック・ギャリス(この監督は原作者キングのお気に入りのようですね…)の力量によるものなのか、脚本と製作総指揮まで務めたスティーブン・キングの完全な支配下に置かれたのか、ドラマは原作の忠実な映像化にとどまってしまい、映像の持つ訴求力は映画と比較にならないと思います。小説の映画化、ドラマ化って難しいものですね…。
キング初期の代表作として絶対外せない名作!新装版の文庫の表紙は優しい感じで、とてもいいですね。
小説の忠実なドラマ化で、4時間32分とかなりの長尺ですが、キングの小説ファンにとっては何でもない長さでしょう。キューブリックが映画化した「シャイニング」と比較してみるのも楽しめますよ。
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