『ザ・キープ』はマイケル・マン監督のちょっとバランスのよくない隠れた傑作です!
こんにちは、カズノコです。
『ザ・キープ』(1983)という、原題をそのままカタカナに置き換えて、(よくあることですが)内容がよくわからない映画をご存じですか?
監督はあのマイケル・マンです!
マイケル・マン監督と言えば、TVの「マイアミ・バイス」シリーズ(1984~1989)で名を挙げ、「ラスト・オブ・モヒカン」(1992)、「ヒート」(1995)、「コラテラル」(2004)など数々の代表作があります。
ところが、この映画、国内ではDVDにもなっていないんですね…。
一説によると、まだ若かったマイケル・マン監督が自由に撮らせてもらえず、自分のフィルモグラフィーと認めていないからとも…、もともと3時間30分もあった長編をバッサリと96分に削ってしまったからとも…言われていますが、将来[完全版]の発売はあるんでしょうか?
いずれにせよ、マイケル・マン監督のそれら作品の数々から、「スタイリッシュな映像派」とか「男の美学」とか呼ばれていまが…
この映画、その名に恥じず、開巻からすごい!
タイトルロールは、遠くから響く雷鳴の中、タンジェリン・ドリームの音楽がドコドコと低音で鳴り響いてきます。曇天から黒い森が表われますが、カメラはずーっとそのまま森の木々を映しながら、下の方に移動していきます。
「どこまでこの森続くねん!」と思ったところで、カメラはやっと地上を走るトラックの一群を映しだします。この流麗なカメラの動きとタンジェリン・ドリームの音楽が素晴らしい!
このトラックの一群はドイツ軍で、ルーマニアのトランシルバニアの山奥の村を目指しているのですが、乗っているドイツ兵たちの疲れ切った顔がまたいいんです。
泥だらけで走るトラックにも味があり、中でも、目を引いたのが「ハーフトラック」で、マン監督のこだわりが既に炸裂しています。
ドイツ軍が到着した村には、何の目的で作られたかわからない「城塞(キープ)」があり、ドイツ軍はそこを占拠します。城塞の壁には十字架のような銀色の護符が埋め込まれており、ホラー映画ではお約束ですが、このようなものは触ってはいけないのに「こいつは銀だ!」とか言って、若い二人の兵士が壁の石ごと引きはがしてしまうのです…。
この兵士のシーンがもろにMTV風で、マントをはためかせながら逆光で壁に駆け寄る兵士の姿をスローモーションでとらえている意味がよくわからない(笑)
また、このシーンでかかるタンジェリン・ドリームの音楽もやたらポップでカッコいい…というか浮いている…。
兵士が石を引き抜いた後、「壁の中はどうなっているのかな?」と、壁の穴に頭を突っ込んで中を見るシーンがこの映画の中で一番好きなシーンです!
兵士からカメラをどんどん引いていくと、壁の中には広大な空間が広がっていて、空間の底には何やら遺跡のようなものが見える。そこに光のかたまりが突然現れ、はるか上の兵士の頭めがけて光はぐんぐんと近づいていく…。一連の流れが素晴らしい!
この映画で強烈な印象を残すのが、城塞に閉じ込めれれていて、太古の昔からよみがえった魔人「モラサール」でしょう。
そうです、「ザ・キープ」のビデオの表紙やスチール写真でよく目にする
「赤く光る目と口に青い顔の首の太いマッチョな体」
のやつで、一見すると仮面ライダーの怪人みたいなやつです…。
この「モラサール」のデザインをしたのが、フランスのコミック=バンド・デシネ作家(漫画家)の巨匠で、映画監督でもあるエンキ・ビラルです。
バンド・デシネ作家には他にもメビウスらが有名で、大友克洋や宮崎駿ら日本漫画界に大きな影響を与えています。また、多数のSF映画へもデザイナーとして関わっており、ここにもマン監督のこだわりが見られます。
原作のF・ポール・ウィルソンの小説を読むと、「モラサール」のイメージはまさにトランシルバニアのドラキュラ、吸血鬼の貴族というイメージでしたので、正直なところ、「こんなモラサールないやろ、宇宙から来たモンスターみたいやし、素っ裸やし…。」と思っていました。
ただ、この映画の中でモラサールは最初は光、次は赤く光る目が見え隠れする煙、そしてドクロ顔のマッチョから、端正な顔立ちのマッチョに少しずつ人間に近い形に変形していってます。ひょっとしたら、最後にヒト化する途中形態なのかも…?
そう考えるとそう悪いデザインでもない…(笑)
また、映画を観ていくとわかるのですが、モラサールの犠牲になるのは、欲に負けて盗みを働こうとする兵士や、集団で娘をレイプしようとする兵士とか、多数のユダヤ人を収容所送りにしてきた親衛隊の隊長とか、ゲスなヤツばかりです。
「こいつ、ワルしか殺さんやないか、見た目よりはいいヤツかも…」と思えてきます。
ドイツ軍は、城塞の中で次々と兵士が殺されていくため、この城塞を研究していたユダヤ人の教授を収容所から呼び戻します。
そこでその教授は「敵の敵は味方」とばかり、ナチスを滅ぼすためによみがえったモラサールと手を組もうとします。
モラサールは、教授に封印を解いてもらえれば城塞の外に出ることができ、ヒトラーを含めナチスを滅ぼしてやろうと約束し、教授に若々しい肉体を戻してやるのです…。
この「ザ・キープ」は、善と悪、光と闇の、太古から永劫に続く戦いをテーマにしています。
悪を倒すために別の悪と手を結ぶことは善なのか、
悪により虐げられたものは善の名のもとまた別の悪を生み出していく
という、アイロニカルなテーマも内包しています。
この映画で残念だったのは、前半と後半のバランスが悪すぎるんですよね…前半の映像と音楽の素晴らしさが、後半になると失速していくのがよくわかります。
特に、「善と悪」の戦いに至る経緯が、大幅なカットで説明不足になり、物語がわかりにくくなってしまったことと、最後のクライマックスとなる「善と悪」の戦いが、しょぼくてあっけなく終わってしまうことは、致命的かも…。
最後にお願い!
マイケル・マン監督には、「ザ・キープ」の特別完全版のリリースか、TVの「マイアミ・バイス」を映画「マイアミ・バイス」(2006)でリメイクした経緯もあるので、この「ザ・キープ」もぜひリメイクしてもらいたい!
※最初に出版された原作本です。悶絶するほどの面白さです!
※「ザ・キープ」に続く物語、「ザ・ナイトワールド・サイクル」を楽しむならこちら
- 作者: F.ポールウィルスン,F.Paul Wilson,広瀬順弘
- 出版社/メーカー: 扶桑社
- 発売日: 1994/01/01
- メディア: 文庫
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